最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)1474号 判決 1968年5月28日
上告人
渡部重男
ほか四名
右五名代理人
永井正恒
被上告人
伊藤藤一
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人永井正恒の上告理由第一に点ついて。
株券が盗取され又は紛失若しくは滅失した場合に、商法二三〇条、民訴法七七七条、七七八条に則り公示催告手続の申立権を有する者は、無記名株券については最終所持人たる株主であり、記名株券については株主名簿上の最終の株主、その者がすでに株式を譲渡しているときは最終の譲受人たる株主であつて、株式を質入している場合でも、質権者のほか、株主は、右公示催告手続の申立権を有するものと解するのが相当である。質権設定者たる株主は株式の質入により株券に対する直接の占有を有しないから右公示催告手続の申立権を有しないとする見解は採ることはできない。従つて、原判決は結論において正当であり、その他所論の違法はなく、論旨は採ることができない。
同第二点について。
民訴法七七四条二項一号にいう「法律ニ於テ公示催告手続ヲ許ス場合ニ非サルトキ」とは、現にとられた公示催告手続について抽象的一般的にこれを認める法律上の根拠を全然欠く場合をいうのであつて、苟くも抽象的一般的に公示催告を許す旨の法律の規定のある限り、具体的個別的の公示催告手続内でなされた事実認定が不当である場合の如きはこれに包含されないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二八年(オ)第三八号同三二年二月二二日第二小法廷判決、判例集一一巻二号三二九頁参照)。
本件において控訴人ら(上告人ら)の主張するところは、被控訴人(被上告人)は本件除権判決の申立をした当時本件株券の所持人でなく、また右株券は紛失したものでなく、本件除権判決申立当時においては控訴人らが現に占有中であつたというに過ぎないのであるから、法律上右株券について一般的に除権判決をなすことを得ないというものではなく、結局、控訴人らの右主張は、具体的な公示催告手続内でなされた事実認定が不当であるというに止まり、民訴法七七四条二項一号に該当せず、適法な除権判決取消の理由とはならない旨の原判決の判断は、正当として是認することができる。
論旨は、民訴法七八〇条により要求されている疎明がないから本件公示催告手続は不適法である旨主張するが、結局、本件公示催告手続内でなされた前記のような事実認定を非難するに帰するものである。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採ることができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)